= 左耳を探せ!! =

 うちのアニキは左のミラーがない。当然のことながら、メーカーからも手に入らない。来る日も来る日もミラーを探していたそんなある修士論文発表会の前前日、左のミラーが手に入りそうだ、との一報をF氏より得る。今ならなんと、車体とエンジンまでついてくる!

 見るとまたしてもオークションサイト。アニキとそっくりでセダンタイプの1963年型ブルーバード(型式P312)が売りに出されていた。売り主は千葉の解体業者で、書類無しの3万円。ってことは合法的な路上復帰は出来ないと言うこと。程度は良好で機関も良好だろう、とのこと。しかもそれはオークション終了日の前日。F氏も時期が時期だけに連絡するかしないか相当迷ったそうだ。じっくり考える猶予もない。精神的にも肉体的にもテンパっていたが、注意一秒怪我一生。過去に一度ついうっかり落札してしまったばっかりに、今の苦境がある。勢い余って落札しないだけの冷静さは体得していた。インターネットに接続している人々で、310系のブルーバードや320系のダットラに乗っている人は見かけたことがない。買い手はつかないと見た。となれば潰して鉄屑になるのは必至で、うまくいけば更に安く買い叩けるかもしれない。

 果たして買い手はつかずそのまま流れることになり、機を見て売り主に電話してみたところ、やはり潰すことになったそうだ。そこで修士論文の発表が終わった翌日、売り手である解体屋の社長に連絡して早速そのヤードに顔を出してみた。見ればトランクの蓋の腐食が進んでいるが、それ以外は比較的良好。機関もアニキのそれより茶色くなかった。社長からヤードに転がっていたバッテリーを適当に一つ頂いてエンジンを掛けてみたが、電装系がよく熟れていてエンジン始動までは至らなかった。欠品といえばアニキと逆で右ミラー。その他目立った欠品といえば書類くらいだ。

 で、その書類だが、聞けば社長と同じ車関係の業者さんが知り合いから預かっていたものだという。問題はその知り合い氏がある女性のためにその女性名義で購入し、その後その女性は失踪してしまったらしい。その後手放す運びになったがその方の行方も解らないでいるため結局その後の離婚手続きもまだ完了していないような状況で、とても車の名義変更どころの騒ぎではないとのこと。結局廃車にする以外なくなった。強引に調べていけばその預け主まではたどり着けるだろうが、事情が事情だけに話を伺って書類はあきらめることにした。

 ともあれ、長旅の末とうとうたどり着いたヤードで、生まれて初めて310系ブルーバードを目にし、修士論文発表に至る辛く長い日々が終わった開放感から即決で落札した。買い叩いてやろうと鼻息荒く乗り込んではみたが、ヤードのみなさんも皆良い人々で、言い値通り3万をその場で支払い、一週間以内に引き取りに来る約束をしてその日は家路についた。 つくづく社長さんには「こんなポンコツに金を払おうって人がいるとはねぇ」と呆れられたが 、冷静に考えれば確かに同感である。その後何度か同業者の間でのオークションで昔の車がでると「こんな車がこんな値段で売れた」と驚きの様子だった。一応自分もこの道には浅く、一般常識の多くは失われていないので社長氏の驚きはよく分かる。時は今、21世紀である。

 ちい兄ちゃんを連れ帰るに当たり問題となってくるのは、どうやって持って帰りどこへ置くかである。とここで腕力を発揮するのがF氏の友人で、一癖も二癖もある車に取り憑かれてしまったN氏。彼はおそらく僕が持っているミニカーのコレクションよりも多くの実車を持ち、そのコレクションは多種多様。今回お世話になるのが、最近買った自家用車のキャリヤカー。それも三台積み。聞けばちょうど運良く同じ週に茨城へ買い物に出かける用があるので、帰りに拾ってくることができるという。そこでお言葉に甘え、お願いすることにした。ちなみに茨城まで行って買って来るものとは初代のセンチュリー。もう日本で平均的にまっとうな人生を歩んできた自分には何がなんだか解らなくなってきた。

 日を改めて取りに行った日はあいにくの空模様。アニキを連れて帰るときはどしゃ降りと水害に悩まされたが、今回は途中から降り始めた雪に悩まされた。雪のためとうとう目的地には到達できず、八王子のIさんの土地にとりあえず置かせていただき、その後日を改めて最終目的地の埼玉某所へと移動を完了した。ちい兄ちゃん救出作戦には多くの方々のお力を拝し、この場を借りてお礼をさせていただきたいと思います。

 
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